
【ブログ・佐々木千鶴】納棺式は、家族で過ごす最後のあたたかな時間

こんにちは。マキノ祭典・葬祭部の佐々木千鶴です。
今回は、お葬式の中で欠かすことのできない儀式「納棺式」について、少しお話しできたらと思います。
通夜や葬儀に比べると、あまり知られていない儀式ですが、納棺式はとてもあたたかく、家族の愛に満ちた時間を過ごすことができます。
マキノ祭典では、社員とプロの納棺師が一緒にご家族と向き合い、大切なひと時をお手伝いしています。
納棺式とは
納棺式とは、故人さまのご遺体を棺に納める前に行う旅立ちの儀式です。
場所はご自宅だったり、葬儀会館だったりとさまざまですが、いずれにせよご家族だけで執り行い、一緒に手を添えながら、送り出しの準備をします。
納棺式では、主に次の4つのことを行います。
- 湯灌 |お身体をきれいにする
- 旅支度|旅立ちの衣服を着せる
- メイク|お顔をきれいに整える
- 納棺 |棺の中にお身体を納める
まずはこれらを順番にご紹介していきますね。
湯灌——旅立ちの前に
はじめに行うのが「湯灌(ゆかん)」。旅立ちに向けて、故人さまのお身体をやさしく清める儀式です。
湯灌の風習はとても古く、昔から、生まれる時は「産湯」、亡くなる時は「湯灌」をしてきました。赤ちゃんがきれいなお湯につかってこの世に生まれてくるように、亡くなった方も、きれいなお身体であの世へと旅立っていく——そんな、いのちの始まりと終わりを大切にする、日本らしいやさしい習わしなのです。
湯灌には、大きく分けて二つの方法があります。
古式湯灌
昔ながらのやり方で、集まったご家族やご親族が、順番に故人さまのお顔、手、足などをやさしく拭き清めていきます。
故人さまのお身体を清めるだけでなく、直接お肌にふれることのできるあたたかい時間が流れます。
シャワー湯灌
専門スタッフが、ポータブルの浴槽やシャワー機材を持ち込み、ご自宅の室内で入浴するように、やさしくお身体を洗います。
とくに闘病生活でお風呂に入れなかった方の場合、「久しぶりにお風呂に入れてあげられてよかった」「きれいさっぱりする姿を見て、こちらの心も洗われる」などと、涙ながらに話されるご家族も少なくありません。
旅支度
お身体がきれいになったあとは、故人さまの「旅支度(たびじたく)」です。
昔ながらの白装束に、手甲(てっこう)や脚絆(きゃはん)、足袋(たび)をととのえ、あの世への四十九日の旅に備えます。
最近では、故人さまが愛用されていたお洋服を着せてあげるケースも増えています。
お気に入りのワンピースやジャケットをそっと着せ、「似合ってるね」「この服が好きだったよね」と微笑まれる光景も見られます。
ラストメイク
湯灌できれいになったお顔にメイクを施すことで、生前の自然なお姿に似せることができます。
プロの納棺師が、血色や表情をととのえ、眠っているような自然なお姿に仕上げますが、ご家族の手で口紅やチークを添えていただいても構いません。
納棺
すべてが整ったら、いよいよ「納棺」です。
大切に準備をしたお身体に、お花や手紙、お守り、愛用品などを添え、ご家族みんなの手でそっと棺にお納めします。
納棺式は、家族だけのやさしい時間
通夜や葬儀は、多くの参列者やお坊さんが来て、どこか緊張感のある空間になります。
一方で、納棺式は、気心の知れた家族や親戚だけで行われることが多く、アットホームな雰囲気の中で故人さまと向き合えるのが、納棺式の一番のよさではないかと、私は思います。
お葬式は、通夜や告別式だけではありません。厳かな雰囲気の中で行われるこうした儀式とは別に、「家族だけの想い」で彩られた、大切な送りの場、それこそが納棺式なのです。
練馬に残る風習「食い別れ」
ちなみに、マキノ祭典のある練馬区では、今も「食い別れ(くいわかれ)」という風習が残っています。
家族葬の多くなった昨今はあまり見られなくなりましたが、それでも旧家や農家などのお葬式では今も見られる、伝統的なしきたりです。
何をするかと言うと、ご家族や親族が輪になって、清め酒を口に含み、一丁の豆腐をみんなで分け合って食べきる。こうして身を清めてから、納棺式に臨むのです。
お葬式が心に整理をつけるための儀式なら、食い別れもその一つだと言えます。みんなで同じものを飲み、そして食べ、「あの人はもう帰ってこないんだ」ということを、お互いに自覚し合うわけですからね。
こうした昔ながらの風習の中にも、故人さまへの手厚い経緯が込められているのだと思うと、納棺式に立ち会うごとに、胸が熱くなるものです。
おわりに
納棺式は、ただ棺に納めるための準備ではありません。
そこには、亡き人を想い、触れ、語りかけ、最後のお別れを実感する「家族の時間」があります。
通夜や葬儀では話すことのできない想いがこぼれたり、生前は伝えられなかった「ありがとう」が口をついて出てきたりするのも、家族だけの営まれる納棺式だからこそのものです。
だから私は、納棺式という時間が、とても好きです。
いつかこの時間が、ご家族の心にあたたかな記憶として残ってくれたら——そう願いながら、日々、このお手伝いをさせていただいています。