【ブログ・若林菜穂】「聴く力」で灯す、心の安堵
こんにちは。マキノ祭典・採用部の若林菜穂、2つ目のコラムです。
入社3年目の頃、当時在籍していた営業部で、日々お葬式のご相談に向き合っていました。
お葬式は「形」のないサービスですが、ご遺族さまの心に寄り添うこと、そしてその「心」をいかに支えられるかが、わたしたちの使命だと感じています。
そして、そのために最も大切だと、わたしが実感しているのが「聴く力」です。
警察署での緊張と、後輩のケア
つい先日、後輩社員を連れて、ある警察署へ向かいました。
対応させていただいたのは、わたしと同年代の方の自死。非常に胸が締めつけられる事案でした。
ご両親は地方から上京されたばかり。憔悴しきっているご様子が、遠目からでも伝わってきました。
公的な手続きやご遺体の搬送など、やるべきことは山積みです。まだ経験の浅い後輩は、緊張とショックで顔がこわばっています。
わたし自身も、過去に同様のケースを担当したことはありましたが、その重い空気感に、対応が終わった瞬間、どっと疲れが出たのを覚えています。
まずは、目の前のお客さま、そして一緒に働く後輩の心身のケアが必要です。
場所を変えて、心をほぐす
警察署での対応を終え、ご両親は途方に暮れているご様子。上京されたばかりで、土地勘もなく、何から手を付けていいか分からない。不安と悲しみが入り混じった表情でした。
わたしは、まず「少し場所を変えて、お話を伺いましょうか」と提案しました。警察署という環境は、手続きの場としては必要ですが、心を落ち着けて話をするには、少し事務的で冷たく感じられるからです。
遠方からいらしているご両親を、これ以上、慣れない場所で振り回すのは忍びない。そこで、近くにあった喫茶店へ移動させていただきました。
「まずは、お母さまのお話をゆっくりお聴きしましょう」
あたたかい飲み物と軽食を口にして、緊張で忘れていた空腹が満たされ、少しずつ心がほぐれていくのが分かります。
するとお母さまは、ぽつり、ぽつりと故人さまとの思い出や、今のお気持ちを話してくださいました。そのひと言ひと言を受け止めるごとに、お母さまの心が落ち着かれたようで、ここからようやく、事務的な話に入っていくことができます。
「話す」という行為は、感情を外に出す、大切なデトックスのようなものなのかもしれません。わたしは、ただひたすらに、そのお話を受け止めました。
無理に「お元気を出してください」とは言いません。ただ「大変でしたね」「そうだったのですね」と、相槌を打ち続けました。
いますぐ決めなくていいですよ
食事をしながら、ようやく少しだけ具体的なご相談に入ることができました。
その時、わたしが常に心掛けているのは、先輩の姿を見て学んだ、この一言です。
「いますぐ、全てを決めなくて大丈夫ですよ」
多くのお客さまは、突然の出来事に気が動転し、「いますぐ、この場で全てを決めなければ」と焦ってしまいます。
でも、悲しみで心身ともに疲弊している状態で、火葬場や葬儀の形式、宿泊場所など、大きな決断を迫るのは、あまりにも酷です。
わたしはまず「いますぐ、全てを決めなくて大丈夫ですよ」とお伝えし、大きな安心感を持っていただきます。そこから、決められることを一つずつ、丁寧に確認していきます。
このご両親は、東京で火葬を済ませ、遺骨を故郷へ持ち帰って葬儀をされることを希望されていました。わたしは、スマートフォンで23区の地図を開き、それを見ながら「どの火葬場が一番行きやすいか」「その場合、ホテルはどこがよいか」など、ご両親にとって最善の方法を一緒に探す感覚で、お話を一つひとつ整理していきました。
「火葬場が混んでいる」という先入観を持って上京されていたため、きっと一週間ほどの滞在を覚悟されていたのでしょう。幸い、翌日の火葬炉が予約できたと伝えると、お二人の表情に大きな安堵が浮かびました。
この時、「早く火葬炉が押さえられてよかったですね」と、わたしも自分事のようにホッとしました。ご家族が安心される瞬間を見るのは、わたしにとっても大きな喜びです。
趣味を話し出すお父さま
ひとしきりお母さまのお話を伺い、少し落ち着いたことで、お父さまも落ち着かれた様子。
安堵されたお父さまが、ふと口にされたのが、テニスの趣味でした。
「そうなんです、テニスが好きでね。大会にも出てるんですよ」
安堵からこぼれた、他愛もない日常の話。奥様は「こんな時にそんな話をしなくても」とおっしゃってましたが、緊張が解けたからこそのお話だと分かっていたので、笑顔でお父さまのテニスのお話を聞かせていただきました。
火葬後の感謝の電話
ご両親は、無事に火葬を終え、お骨を胸に抱えて、ご故郷へと帰られました。
わたしは、当日の火葬の場には立ち会えず、最初のご挨拶しかできませんでしたが、全てが終わった後、お父さまからわざわざお電話をいただきました。
「本当に、若林さんに担当してもらえて良かった。おかげさまで、無事に娘を見送ることができました」
この時も、感謝のおことばはもちろん、約20分にわたってテニスのお話や他愛もない日常の話をたくさんしてくださいました。
少し苦笑いをしてしまいましたが、ふと考えました。
お父さまから見ると、わたしがお亡くなりになった娘さんとちょうど同じ年頃です。もしかしたら、わたしに話すことで、娘さんと対話しているような、そんな安心感を感じてくださったのかもしれません。
大切な方を亡くし、途方に暮れているご遺族さまが、わたしという担当者に信頼と愛着を持ってくださったこと。それは、本当にありがたいことだと深く感じています。
わたしたちは魔法のように悲しみを消すことなんてできません。しかし、ただ一つできることがあるならば、それが「聴く」ことです。
故人さまへの想い、これからの不安。それらを胸の中にしまうのではなく、誰かに話を聴いてもらうだけで、不思議と心が落ち着き、前を向けるようになるものです。
ご家族が心から安堵される顔、悲しみの後に「先が見えた」とホッとした表情を見るのが、この仕事の最大の喜びです。
これからもわたしは、一人の人間として、そしてマキノ祭典の一員として、ご遺族さまの声にならない声まで、丁寧に「聴く力」を磨いてまいります。